田舎の祖父母宅の近くにはまだごくわずかですが「野良犬」がいた頃のずいぶん昔の話です。
その中に、引き締まったボディで四肢がスラっとしてスーパーモデルのようなスタイルの野良犬がいました。人に媚びることもなく、懐くこともなく、孤高に生きる姿は私にはかっこよくて、たまに保健所の担当が捕まえに来た時には、
「がんばって逃げてー!」と心の中で応援していました。
もちろん彼女は颯爽と逃げるのです。そんな彼女を私たちは「ノラ」と呼んでいました。彼女は実は祖父母が飼っている犬の恋人(恋犬)でした。ですので、近所には彼らの子ども犬や孫犬がいっぱいいました。
ある日ノラがまた出産しました。ちょうど帰省していた時で、幸運にも私も立ち会うことができました。生まれたてのまだ羊膜という羊水の入った袋に包まれてた仔犬、それをノラが優しく取ってあげる姿、手に乗るほどの小さな仔犬の温もり、すべてが感動的な出産シーンでした。
出産後のノラは子育て中、祖父母の犬の犬小屋を占拠するのです。祖父母の犬は、雨の日も風の日も小屋の外で離れずにずっと傍にいるのです。これが夫婦愛なのか、母は強しなのか、祖父母の犬がただお人よしなのか本当のところ、わかりませんが、ノラが仔犬を育て祖父母の犬がノラと仔犬を見守る姿がとても微笑ましく、美しい夫婦愛だなと感じました。
ちなにみ子育てが終わると、誰も見ていない隙にまたノラは街へと姿を消すのです。今では見れない光景ですが、こんな時代もあり、大事なことを学ばせてもらった、大事な思い出のひとつです。